簒奪者 - disperse -



 突然のキスにアイリスは目を見開くことしか出来なかった。何がどうしてこうなったのか、理解が追いつかないのだ。しかし、響く悲鳴や騒然とする周囲の様子からとんでもないことが起きたのだということは分かった。
 ただただ、唖然とするしかないアイリスは微かに震える指先で柔らかな唇が触れた自身のそこに触れた。そんな彼女を満足げに見つめながらシリルは笑みを滲ませる。


「私は貴様を気に入った。確か名はアイリスというのだったな」
「……」
「ああ、そう言えば……半年前に死んだコンラッド・クレーデルの養女の名もアイリスだったか」
「……っ」


 ちらりと向けられた視線にアイリスは目を瞠った。ゲアハルトに勧められ、コンラッドの養女であるということは誰にも口外したことはなかった。それにも関わらず、シリルは全て見透かしたような顔でそれを口にした。
 彼の口から出た養父の名にその場は一層ざわめいた。生前は第七騎士団の団長を務め、ホラーツとも親しい間柄だったという。貴族ということもあり、決して低い身分の男ではなかった。だからシリルも知っていたのだろうかと僅かに顔を歪めていると彼の微かな笑い声が耳に届いた。


「まあいい。貴様がクレーデル家の養女なら身分もまあ申し分ない。貴様を私の妃にしてやる。……と言いたいところだが、それはさすがに性急か。ならば、」


 予想もしなかった妃という言葉に目を見開いた矢先、アイリスの視界に明るい金色の髪が映り込んだ。そしてそれが誰であるかを認識するよりも先に、彼女とシリルの間に入り込んだその人物は握り締めた拳を振り上げ、容赦なくシリルの顔に振り下ろした。途端に絹を裂いた悲鳴が上がり、同様に下がっているように指示されていた近衛兵らが動き出す。
 そこで漸く、アイリスはシリルを殴り付けたのがレオだということに気付いた。なんてことをするのだと、一瞬にして彼女の顔は青くなる。仮にも第一王子を殴ったのだ。近衛兵の後ろで怒り狂って叫んでいるキルスティの様子を見ずともどのような刑に処されるかなど考えるまでもない。


「レオっ」
「……平気。それより、ごめんな、アイリス」


 堪らず名前を叫ぶもレオは彼女を振り向くことなく、ぽつりと謝罪の言葉を口にした。一体何に対して謝っているのだろうかと思うも、今はそれを問い質している場合ではない。周囲には剣を手にした近衛兵が詰め掛け、キルスティやシリルの号令一つでレオの命は断たれてしまう。どうにかしなければと焦りは募るものの、思考がまとまることはなく、刻一刻と時間だけが過ぎていく。
 そんな中、殴り飛ばされていたシリルがゆっくりと身体を起こした。口の中が切れたらしく、口の端からは血が零れている。しかし、不思議と彼から怒りは感じなかった。寧ろ、笑みさえ浮かんでいる。それに気付いたアイリスの背にひんやりとした汗が伝った。


「久しぶりに会う兄に向かって結構な挨拶じゃないか、レオ」
「……」
「……兄?」
「ああ、周りには伏せていたのか」


 わざとらしく言うシリルの口から出た言葉にアイリスは目を瞠りながら顔を俯けるレオの背中を見つめた。それと同時に脳裏に過ったのはカーニバルの期間中、彼から聞いた生い立ちの話だった。腹違いの兄弟がいるということをレオは言っていたが、まさかとアイリスは口の端の血を拭うシリルと口を開こうとしないレオの顔を見比べ、そして口元を手で覆い、唖然としているエルザとを見比べていると脳裏にはホラーツの朗らかな表情が浮かんだ。
 そこで漸く、アイリスは自身がこれまでに感じていた既視感の正体に気付いた。ホラーツやエルザの笑顔に既視感を覚えたのは、それがレオの笑顔とよく似たものだったからだ。シリルは母親似らしく、それほどレオとエルザのようにホラーツに似ているというわけではないものの、血が半分は繋がっているだけに似通ったところはあった。


「アイリスも困惑しているぞ。何とか言ってやったらどうだ、レオ。自分は妾腹から生まれたこの国の第二王子だ、と」
「……っ」


 嘲るような口振りで吐き出された言葉にレオは歯を食い縛っていた。その様子からもシリルが口にした言葉が嘘ではないのだということが伺え、アイリスは言葉を失った。
 レオがベルンシュタインの第二王子だった。それは今まで一度たりとも考えたことのなかった事実であり、すぐ傍にまるで違う身分の人間がいるなどとは思いもしなかったのだ。何か理由があって身分を隠して騎士団に所属していたのだということは分かるのだが、やはりどうしてなのかという疑問と仕方のないことだとは分かりつつも、打ち明けてもらえなかったことへの寂しさを感じずにはいられない。


「……兄上、いくら貴方のすることでも許されることと許されないことがあります」


 レオはアイリスを一瞥することもなく、微かに震える声で呟いた。手が白むほど、力強く握られた拳はその声と同じく微かに震えていた。このまま握り続ければ、爪が皮膚を裂くのではないだろうかとアイリスが心配に思っていると、「ほう、それは何だ?」と嘲笑を含んだシリルの声が鼓膜を震わせた。


「私が王位に就くことか?ゲアハルトを捕縛したことか?それとも、私がアイリスにキスをしたことか?」
「……っ」
「やめて、レオっ」


 軽く指先で自身の唇に触れながら笑うシリルにレオは掴みかかった。もう一度、彼を殴るようなことがあれば、その時は問答無用で剣が振り下ろされるだろう。アイリスは悲鳴に似た声を上げ、抱きつくようにしてレオをシリルから引き離そうとする。しかし、彼女の力だけで引き離せるほど、レオの力は弱くはなく、頭に血が上っているということもあっていくら名前を叫んでも彼が力を緩めることはなかった。
 シリルはされるがままになっていた。場違いなほどの笑みさえ浮かべ、目の前で激昂するレオを嘲笑っていた。その笑みがレオの怒りに油を注ぎ、「謝れよ!」と彼は怒鳴り声を上げた。シリルの胸倉を掴み上げ、揺さぶりながら声を大にする。


「アイリスに謝れよ!」
「レオ、いいから……!もうやめて!」


 レオが手を離さなければ、立場が悪くなる一方だ。ゲアハルトに続き、彼までその立場が危ぶまれるなど、そんなことにはなって欲しくなかったのだ。しかし、アイリスの声は彼に届かない。謝れと声を荒げるレオに対し、シリルは一際笑みを滲ませ、漆黒の瞳を細めると「ああ、いいぞ」と冷めた声音で囁いた。
 その言葉にレオはぴたりと動きを止める。謝れ、と叫ぶレオに対し、シリルはそれを了承したのだ。だが、その表情を見ていても何かあるように思えてならず、アイリスの脳裏には嫌な予感が過った。


「そんなに謝って欲しいのなら膝をついて謝ってやろう。……ただし」
「……何だよ」
「貴様が王位継承権を放棄するのなら、だ。今この場で放棄すると宣言するのなら、私は彼女に膝をついて謝罪しよう」
「……っ」


 交換にさえならない条件だった。そんな条件は到底飲むことなど出来るはずもなく、また、飲んではならない条件だった。唇を噛み締めて怒りを露にするレオに対し、シリルは嘲った笑みを浮かべ「さあ、どうした。謝って欲しいのだろう?」と口にする。謝る気などまるでないその様子にレオはきつく拳を握り締める。
 それに気付いたアイリスが慌ててその腕に抱きつき、「もういいから、レオ!」と叫ぶ。絶対に殴らせてはならない、ときつく腕を抱き締めるも、「ふざけるな!」と声を荒げるレオはアイリスを振り払ってシリルを殴ろうとする。いつもとはまるで違うその雰囲気に気圧されるも、だからといって腕を振り払われるわけにはいかない。懸命にしがみ付いていると、不意に乾いた音が間近から響いた。


「売女から生まれた薄汚い子どもがよくも私たちの前に顔を見せられたわね!」


 金切り声を上げながらキルスティはレオの頬を何度も叩いた。長い爪が頬を掠り、そこから血が滲み出る。しかし、レオは歯を食いしばって何も言い返すことはしなかった。「いつまでシリルに触っているのよっ」と一際声を上げると、キルスティは力任せにレオの身体を突き飛ばし、レオを支えきれなかったアイリスは尻餅をついた。
 先ほどまでとは打って変わってレオは顔を俯けていた。どれだけ力を入れても止められなかったにも関わらず、キルスティには容易く突き飛ばされた彼に違和感を感じていると、明るい金髪から覗く顔色は真っ青で見開かれた瞳は揺れていた。堪らず、レオ、と声を掛けるも、アイリスは「貴女もどういうつもりよ!」と肩で荒い呼吸を繰り返すキルスティに肩を掴まれた。食い込む爪の痛みに顔を歪めながらも彼女を見上げれば、怒りと嫉妬に満ちた視線に射抜かれる。


「ただの兵士のくせに、王子を誑かすなんて!その上、クレーデルの養女だなんて……あの淫売といい、この国の女の軍人は一体どうなってるのよっ」


 誑かしたつもりなどないアイリスはキルスティの怒鳴り声に困惑するしかなかった。しかし、違います、と弁明しようにも冷静さを欠いている彼女に今は何を言っても火に油を注ぐことにしかならないということは目に見えて明らかであり、アイリスは痛みに顔を顰めながらも口を噤む。すると、更なる言われようのない罵声を浴びせ掛けられるが、「母上、落ち着いてください」とさすがに見かねたらしいシリルが口を挟む。
 だが、「そもそも貴方もどういうつもりなのよ、シリル!」と矛先がアイリスからシリルへと変わるだけだった。アイリスは痛みの残る肩に触れながらも、隣で顔を俯けているレオの様子を伺う。頬から滲み出ている血に気付き、アイリスは取り出したハンカチでその血を拭う。痛みに僅かに肩を震わせたレオに「すぐに治療するから」と囁き掛けたところで「いい加減にしてください!」と凛とした声が広間に響いた。


「今はお父様の葬儀の最中ですよ?それなのにこんなに騒ぎ立てて……お母様もシリルも、一体どういうつもりですか!」


 席から立ち上がり、今まで沈黙していたエルザが声を張り上げる。広間によく通るその声にそれまで声を荒げていたキルスティは口を噤み、ばつの悪そうな表情でエルザから顔を逸らした。しかし、ちらりと見たその瞳には未だ怒りと嫉妬が渦巻き、きつく引き結ばれた紅い唇は微かに震えていた。


「確かに最初に手を上げたのはレオだったけれど、そもそもの原因はシリル、貴方でしょう」
「私が?」
「そうよ。貴方がアイリスにあんなことをしたから……」
「だからといってレオに私を殴る権利はない。これは不敬罪に相当するでしょう」


 連れて行け、とシリルは冷やかな視線を足元に座り込んでいるレオへと向けた。途端に動き出す近衛兵に取り囲まれ、アイリスは咄嗟に「待って下さい!」と声を張り上げるも、半ば無理矢理レオから引き離されてしまう。引き摺るように立ち上がらされたレオは先ほどまでの勢いが嘘のように消え失せ、連れられるままに歩き出した。
 このままでいいはずがないとアイリスは追いかけようとするも、近衛兵によって進路は塞がれてしまう。通して下さい、と言うも彼らは聞こえないとばかりにそこから一歩も動こうとはしない。その間にもレオは近衛兵によって周囲を固められ、広間の外へと連れ出されてしまった。


「レオっ」


 堪らず彼の名前を呼ぶも、広間の扉は閉ざされてしまう。自分のせいだ、と硬く閉ざされた扉を見つめ、アイリスは顔を歪めた。シリルを拒めていたのなら、もっと早くに気付いて避けていたのなら、こんなことにはならずに済んだのにと今更ながらに後悔が胸の中に湧き上がる。
 彼の血が付いたハンカチを握り締め、唇を噛み締めて込み上げる涙を耐えていると「あんまりよ!レオは貴方の弟なのよ、シリル!」とエルザの声が響く。とてもではないが、彼の判断を認めるわけにはいかないのだという気持ちがその声には籠っていた。しかし、そんなエルザの気持ちを踏み躙るようにキルスティは声を張り上げる。


「あんな薄汚い子がシリルの弟だなんてっ……エルザ!撤回なさい!」
「いいえ、お母様。レオは私の弟であり、シリルの弟です。お母様こそ、いい加減、レオの存在をお認めください!」
「我々王家の者にとって売女の息子なんて不要よ!本当に陛下の子かどうかも分からないのに、」
「お母様っ!」
「落ち着いて下さい、母上」


 怒りに顔を染めるキルスティに対し、シリルは淡々とした声音で言う。そして、唖然としているアイリスを一瞥した彼は彼女同様に怒りで頬を赤くしているエルザを見据えると、「姉上の言う通り、レオが私の弟であるというのなら、尚の事、けじめが必要でしょう」と口にした。


「レオは私を殴った。それは紛れもない事実だ。次期国王である私に手を上げ、それを弟だからといって何の処分も下さないのであれば臣下や兵士に示しがつかない」
「……シリル、貴方という人は」


 尤もらしい言葉を並べるシリルはエルザは柳眉を寄せ、唇を噛む。レオはシリルを殴った。それは紛れもない事実であり、不敬だと言われても仕方のないことではある。だが、その原因を作ったのもシリルなのだ。だからこそ、エルザは何も言わずにはいられなかった。
 それらを聞いていたアイリスはきゅっと唇を噛み締めると、シリルの目の前に回り込み、そして手を振り上げた。我慢の限界だった。自分がどうなろうと構わないと思えるほどの怒りに突き動かされ、アイリスは感情のままに振り上げた手をシリルの頬へと振り下ろそうとした。


「おっと。……貴様まで私を殴ろうとするのか」
「……離して下さい」
「それは出来ない。離せば貴様は私を殴るだろう?そうすれば、私は貴様のことも罰せねばならなくなる」


 振り下ろそうとした手はシリルの手の阻まれ、手首をきつく握られてしまう。振り払うことも出来ず、アイリスはそのことを情けなく思いながらただ彼を睨みつけることしか出来なかった。彼の表情は変わらず、悠然とした笑みを浮かべている。その態度が気に入らず、アイリスは何とか手を振り払えないものかと試みるも、「無駄だ」と彼に笑われてしまう。


「そう言えば、話の最中だったな。貴様を妃に迎えたいところだが、まずはアイリス、貴様を近衛兵団に迎えようと思う」
「何を勝手なことを、」
「殿下、それはあまりにも勝手が過ぎます」


 拒むアイリスの言葉を遮り、離れたところからエルンストの声が聞こえた。視線を向けると、周囲の貴族らに抑えられながらも彼は椅子から立ち上がっていた。シリルが冷やかな視線を彼に向けると、エルンストは「アイリスは第二騎士団の所属です。異動を命じられるなら正規の手続きを踏んで頂きたい」とはっきりとした口調で言い切る。
 しかし、シリルはその言葉を鼻で笑う。その笑みにアイリスははっきりと嫌悪感を顔に表すも、エルンストに視線を向けているシリルに気付いた様子はなかった。


「残念だが、エルンスト。恐らくその必要はなくなる」
「……どういう意味でしょうか」
「第二騎士団は国葬後、監察官による監察が行われる。何と言っても率いていた人間が帝国の皇子だったからな、場合によっては処罰しなければならない者も出てくるだろう」


 目を細めてエルンストを見るシリルの横顔にアイリスは顔を青くした。彼はエルンストを処罰する気なのではないか、と。厳密にはエルンストは第二騎士団の所属というわけではなく、第二騎士団付きの後方支援を率いている立場にある。しかし、これまでのシリルの様子を見ていれば、エルンストも第二騎士団として取り扱い、監察対象とすることは目に見えている。
 そのようなことになれば、ゲアハルトと近しいエルンストはまず間違いなく処罰対象とされるだろう。また、彼だけでなく、部隊長であるレックスを始めとする多くの第二騎士団の兵士らが処罰対象になりかねない。そうなれば、騎士団として成立することえ出来なくなる。
 そもそも、全てが上手くいきすぎだった。監察の件にしても何の用意もなくすぐに実行できるものではない。まるで全て最初から仕組まれていたように思えてならなかった。司令官であるゲアハルトの地位の剥奪、第二王子のレオを捕縛し、第二騎士団に監察官を差し向ける――何の用意もなしに出来ることではない。背筋に冷たい汗が伝う。シリルは一体何をするつもりなのか、とアイリスは恐ろしささえ感じながらすぐ近くに立っている彼を見上げた。


「どうせ成り立たなくなる騎士団だ、そこから兵士を一人異動させる為にわざわざ正規の手続きを踏む必要もないだろう」
「……しかし、」


 エルンストは言い募ろうと口を開くも、周囲からの制止の声が上がる。これ以上、食い下がれば彼の立場を悪くさせることにしかならない。アイリスはもういい、とばかりに首を横に振った。その所作に彼は目を瞠り、口を開くもアイリスはもう一度だけ首を横に振った。


「……シリル殿下」
「どうした?」
「……ご命令通り、近衛兵団に移ります。その代わり、……司令官とレオに会わせて下さい」


 異動したくないと言ったところでどうすることも出来ないだろう。たとえ出来たとしても、それは恐らく誰の犠牲もなしには出来ないはずだ。ならば、命令に従った方が余程いいように思えたのだ。
 彼女の出した交換条件にシリルは目を瞠ったが、すぐに笑みを滲ませて「いいだろう」と頷いた。アイリスが何を考えているのかなど、彼には容易く予想が付いているはずだ。それでも了承するのは、ゲアハルトのこともレオのことも彼女が助けられるはずがないと思っているからかもしれない。
 ならば、これで話は終いだとシリルは漸くアイリスの手を離した。自由になった彼女はすぐに彼から距離を取るも、その背はとんと背後に立っていた人物にぶつかった。顔を上げると、そこには柳眉を潜めたエルザがいた。


「彼女が近衛兵団に異動するというのなら、アイリスは私の預かりとするわ」
「姉上、」
「今日だって元々は私の護衛の為に彼女は来てくれていたのよ。ならば、以後の預かりも私で構わないはずよ」


 アイリスを自分の背に回し、エルザは真っ向からシリルを見上げる。途端に彼の表情は顰められたが、「それで結構よ。エルザに任せなさい、シリル」とそれまで口を閉ざしていたキルスティが彼に代わってエルザの申し出を許可した。母上、と非難する声をシリルは上げるも、余程アイリスを彼から引き離したいらしい彼女は聞く耳を持たなかった。
 シリルもキルスティに言われれば強くは出られないらしく、仕方がないとばかりに頷いた。エルザは僅かに表情を緩めると、アイリスを振り向き、「席に戻りましょう」と声を掛ける。預かりがエルザになったことにアイリスは心底安堵しつつ、促されるままに踵を返した。
 それと同時に停滞していた献花が再開された。しかし、その空間に先ほどまでの厳粛さは既になく、誰もが顔を見合わせ、耳打ちし、これから始まるであろうシリルによる王政とベルンシュタインのこれからの不安に満たされていた。



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