代償 - regret -



 レオはひっそりと深呼吸を繰り返す。バイルシュミット城の大広間――先王であるホラーツや兄であるシリル、そして、先王の妃だったキルスティの国葬が執り行われたことも記憶に新しいその場で、レオの即位式が行われていた。大広間にはエルザを始めとする王族や貴族らの姿がある。
 だが、そこにはシュレーガー家の人間はいなかった。エルンストを捕縛した後、シュレーガー家の当主であるディルクに謹慎を言い渡したのだ。期限は決められていない。だが、エルンストの一件は公にしないことを条件に出せば、ディルクは予想していたよりもすんなりとそれを受け容れた。これから先のことを考えても、公にされることなど何が何でも避けなければならないことだからだろう。
 しかし、即位式の場にベルンシュタイン随一の名門貴族の姿がないとなると、やはり様々な憶測は飛び交っているようだった。レオの耳にまで届くほどの声ではないにしろ、時折、以前までシュレーガー家の人間が座っていた最前列付近を見ては周囲の人間たちと声を顰めて話しているようだった。
 だが、何も話題に上っているのはシュレーガー家のことだけではない。この場に本来ならばいるはずの司令官であるゲアハルトの姿もないのだ。彼のことは負傷についての一切を伏せられている。そうしなければ、どのような影響が出るか分からないのだ。とは言っても、ゲアハルトを打ち負かしたカサンドラは健在なのだ。彼女の報告が既にヒッツェルブルグ帝国に届いているであろうことを思えば、ゲアハルトの負傷についてもいつ情報が流されるか分かったものではない。それはエルンストの件についても同様のことが言える。


「陛下、そろそろ演説の頃合いです」


 即位式は順調に進んでいる。既に戴冠を終え、後はレオの演説を残すのみとなっている。声を掛ける副官に頷き、レオはゆっくりと玉座から立ち上がると、自分を見上げる貴族や軍人、城仕えの人間たちの前に立った。ちらりと離れた席を見ると、そこには緊張した面持ちのエルザがいた。彼女は微かに笑みを浮かべると小さく頷いて見せる。その笑みに背中を押されるように、レオは前方へと向き直った。
 視線を走らせる。だが、そこにはアイリスの姿はなかった。レックスがじっとこちらを見上げ、そして小さく笑みを浮かべる。ゲアハルトもいない、エルンストも、アベルもいない。それでも、自分は一人ではないのだということを思い出し、レオは口を開いた。


「我が父であり、先王レオナルド・ホラーツ・ベルンシュタインが崩御し、それに続くように正妃キルスティと兄シリルも亡くした――」


 暗記した原稿を諳んじながらレオはまさか自分が今、こうして多くの人間の前で話すことなるとは思ってもいなかったなと考える。次の王はシリルであるとばかり思っていた。そうでないのなら、ゲアハルトを養子にするのではないかとさえ思っていたのだ。だからこそ、自分に王としての重責が務まるのかどうかは分からない。この国の王となるには、自分はあまりにもまだ、力が無さ過ぎる。
 けれど、自分一人ではどうすることも出来ないからこそ、自分を支えてくれる者がいるのだということも知っている。それだけでなく、兵士として最前線にいたからこそ、人を傷つける痛みも傷つけられる痛みも知っている――だから、きっといい王になるのだとアイリスは言ってくれた。
 その言葉を思い出す。今はこの場にいなくとも、きっといつか戻って来てくれる。自分たちが心配するほど、アイリスは決して弱くはないのだと自分に言い聞かせ、彼女が戻って来たときにがっかりされないように、今精一杯、国王として頑張らなければならないと自分自身を奮い立たせる。


「この中にはつい最近まで私の存在を知らなかった者も多くいるだろう。そんな私を王として戴くことは出来ないと思うかもしれない。それは当然のことだと思う。だが、それでもどうか、認めて欲しい」


 彼らにしてみれば、突然現れたぽっと出の第二王子だ。これまで特に王子らしいことをしたこともなく、王族としての知識も乏しい。必要最低限のものしか知らず、政にも明るくない。その分、軍事には明るくはあるものの、ゲアハルトのように策を講じることはあまり得意ではない。どちらにしろ、もっともっと勉強しなければならないことは多くある。
 だが、今はそれをしている余裕もない。帝国は待ってくれないのだ。必ずこれを好機として攻め込んで来る。その時に、国を一つにまとめることの出来る存在が、王が不在というわけにはいかない。かと言って、お飾りになろうと思っているわけではないのだ。今の自分に出来ることは限られている。支えなしには何もすることは出来ず、間違った判断を下すこともあるかもしれない。
 けれど、だからこそ、一つにまとめることが出来るとも思ったのだ。この国を守りたいという思いは誰もが同じはずだ。そのために、力を集める為に、その為の存在になることは出来るかもしれないと、レオはぎゅっと拳を握り締める。


「ベルンシュタインを守る為には、この国を守る為には今、一つとなって戦わなければならない。その為には皆の力が、支えが必要だ」


 たった一人でどうにか出来るとは思っていない。父王のように優れた王としての才能を持っているというわけでもない。経験もなく、知識も乏しい。それでも、この国を守りたいという思いだけは負けてはいないとレオは思っていた。その点にだけは、胸を張って誰にも負けないと言える、と。


「守りたいものを守る為には一人では難しいこともある。私はこれまで軍人として、最前線で戦ってきた。だからこそ、守ることの難しさを知っている。傷つける痛みも失う痛みも知っている。もうこれ以上、そんな痛みと憎しみの連鎖は止めなければならない」


 難しいことを言って説得することは出来ない。暗記して諳んじることならばいくらでも出来るだろうが、そのような言葉では誰の心にも届かないと思うのだ。だからこそ、レオは考えて考えて、どうすれば自分の気持ちがこの演説を聞く者たちに届くのかを考えていた。
 即位式の作法を破ることにもなるだろう。副官らはいい顔をしなかった。だが、それでもいいと思ったのだ。作法や顔色などどうでもいい。それよりもずっと、自分には伝えなければならないことがある。それらを伝えなければ、誰の協力も得られないと思うのだ。


「この国だけじゃない。自分の家族や友人、恋人を守る為には共に手を取り合って、一つになって戦うしかない。だから、どうか、王と認めて、私と共に戦って欲しい」


 この国を守る為、と言っても大多数には考えも及ばないことかもしれない。だが、自分の周りの人間――親しい間柄の人間を守る為ならば、容易に思い浮かべることは出来るだろう。その者たちが浮かべる笑顔を守る為ならば、と。
 レオはこれ以上は何も言うまいと口を噤む。ただ、徒に言葉を重ね続ければいいというわけではない。伝えたいことは言いきったのだ。ならば、後はそれが彼らの心に届き、賛同を得られるかどうかというだけのことだ。
 しんと大広間は静まり返る。それでも、レオは視線を逸らすことはなく彼らの顔を順繰りに見つめ続けた。駄目だったかと思わなくもない。これじゃあ格好がつかないなと心のどこかで自嘲する自分もいる。けれど、それらの言葉を無視してレオは辛抱強く、彼らの反応を待つ。野次でもよかった。兎に角、何らかの反応が欲しかったのだ。
 野次られたならば、精進すればいい。認められたのなら、彼らと手を取り合えばいい。それだけのことだと自分に言い聞かせるも、続く沈黙はレオの気持ちを重たくさせる。そうしているうちに、いくら気持ちを強く持とうともつい、視線が下がってしまう。だが、そんな矢先――不意にぱちぱち、と乾いた拍手の音が聞こえた。
 その音に釣られるように視線を持ち上げると、立ち上がったレックスが手を打ち鳴らしていた。彼の姿に少しだけ目頭が熱くなる。こんな大勢の中でたった一人立ち上がって拍手をする――それがどれだけ勇気が必要なことか、それを考えると感謝せずにはいられない。けれど、誰も彼に続こうとしない。そのことに再びレオが視線を落とそうとした矢先、大広間の最奥の騎士団の一部の兵士らが集まる中、大きく拍手している兵士が現れた。とても距離がある。けれど、目を凝らせばそれがかつて共に肩を並べて戦った友人の一人であることに気付いた。その距離を見ていると、随分と遠く離れた場所まで来てしまったように思えた。だが、遠く離れていても尚、分かったのは変わらぬ笑顔を向けて、拍手し続けてくれているということだ。それが、とても嬉しかった。
 そして、その拍手につられるようにして次第に拍手をする者たちが増え始める。椅子から立ち上がり、拍手をする。兵士も軍人も城仕えの人間たちも、ゆっくりとその輪は広がっていく。無論、誰もがというわけではない。それでもよかった。レオはきゅっと唇を引き結ぶと、礼を伝えるその代わりに深々と頭を下げた。







 地面を力強く蹴り、駆けていた馬の速度がゆっくりと落ち始める。既に太陽は昇り、昼を大きく過ぎた頃、アイリスは王都ブリューゲルに程近い街に到着していた。王都に近いだけあり、街の規模も大きく人で賑わっていた。アイリスはアベルに促されるままに馬を下りると少し前を歩く彼の後に続きながらも、その表情は漸く助かるのだという安堵感よりも思い悩んでいるような様子のものだった。
 明け方、その日の寝床としていた小さな洞窟から出た二人は森を抜けた先にある小さな街に辿り着いた。そこにも一応、国境連隊の詰所はあるのだ。恐らくはアイリスの行方を捜索するような命令か、もしくは彼女を発見した時は保護するようにという命令が下っているはずであると考えていたため、彼らに保護してもらうことが目的だった。
 実際、二人は国境連隊の詰所のすぐ近くまで訪れていたのだ。だが、結局は声を掛けることもなく引き返すこととなった。アベルが、止めにしたのだ。此処は森を抜けてすぐの詰所だからカインたちに見つかるかもしれない――そう言って、もう一つ向こうの街の詰所に向かうことにしたのだ。
 だが、その次へ、その次へと次から次へと先延ばしにされ、ついには王都のすぐ近くの街まで辿り着いてしまった。此処に到着する前にカインらに見つかってしまうのではないかと不安にも思ったものの、幸運にも彼らと遭遇することはなかった。恐らく、洞窟から出立する前にアベルが召喚していた狼、フェンリルに命じた作戦が功を奏しているのだろう。作戦といっても、至極簡単なものでしかない。蛇を使って行方を探らせていることを逆手に取り、全くの別方向に向かっているように思わせる為にフェンリルが王都とは逆方向に向かって駆けていく、ただそれだけのことだ。
 馬を調達せずにフェンリルの背に乗って移動しているという風に思っていなければ成功しない作戦ではあるものの、王都に辿り着くことが出来たということは上手く誘導されたと思っていいのかもしれない。アイリスはそう考えながら、先を歩くアベルに視線を戻すも、視界の端を過った荷馬車に気付くなり、彼女は慌てて前を歩いているアベルの腕を引いた。


「あ、危ないよ、アベル!」


 すぐ目の前を荷馬車が通り過ぎていく。気を付けろと怒鳴る荷馬車に乗っていた男に頭を下げつつ、アイリスはまるで荷馬車の存在に気付いていなかったらしいアベルに声を掛ける。彼も少しばかり驚いた顔をしていた。しかし、すぐに顔を背けると「ちょっと気付くのが遅れただけだよ」とだけ言って腕を掴んでいるアイリスの手を軽く振り払った。
 そしてそのまま歩き出すのだが、またもや人とぶつかり掛ける。慌てて彼女がまた腕を引いたということもあってぶつからずに済んだものの、あまりにも彼らしくない様子だった。だが、不意に気付く。ぶつかりかけた荷馬車も人も、どちらもアベルの死角――失った目の方向から来るものばかりだったのだ。
 アイリスは開きかけた口を噤む。何と言えばいいのか分からなかった。だが、気付いてしまった以上、放っておくわけにもいかない。かと言って、そのことを口にするわけにもいかず、彼女は数瞬迷った後に歩調を速め、アベルの隣に、彼の見えなくなった視界を庇うように並んだ。


「……何」
「何でもないよ」


 自分が何を意図してのことか、それが分からない彼ではない。だが、アイリスは何も言わず、そんな彼女に対してアベルも何も言わなかった。これでいいのだと、見えないのならば危なくないように自分が隣にいればいいのだと思いながらも、やはり空気は重たくなる。余計なことだと感じているのならはっきりと言うアベルだ。何も言われないということは少なくとも邪魔だとは思われてはいないはずだ。
 自分自身にそう言い聞かせながら黙々と歩いていると、「……あのさ」と不意にアベルが口を開いた。一体何なのだろうかと視線を彼に向けるも、包帯に覆われた目元が見えるだけで表情までは窺えなかった。


「あんたが……その、自害しようとしたことだけど、さ……」
「……うん」


 予想外の話題ではあった。今ここで、自分が舌を噛み切ろうとした時のことが出てくるとは思いもしなかったのだ。アイリスは自分の口元へと手を遣りながら、視線を伏せる。傷は既に回復魔法で癒えてはいるが、あの時の痛みも口内いっぱいに広がった血の味も何もかも、忘れてはいなかった。


「軍人としての行動と考えると間違ってないと思う。僕だって同じことをする。……でも、正直、その話を聞いた時、驚いたし心配……した」
「……ごめん」


 視線を伏せ、アイリスは小さく拳を握り締めた。軍人としては間違った行為ではない。機密を守る為に死を選ぶことは、決して珍しいことではないのだ。何より彼女は、あまりにも機密事項に近過ぎた。白の輝石のことを、知り過ぎているのだ。その情報を守ることを考えると決して間違った行為ではない。
 けれど、周りの人間の気持ちを考えれば出来るはずもない行為だということも分かっていた。そのことへの後ろめたさや心配を掛けたことに対する罪悪感や申し訳なさはある。だが、それ以上に「あんたのことを大事にしてる奴が知ったら、きっと絶対、悲しむよ」というその言葉に胸が痛んだ。
 本当は、情報を守ることだけの為にしたことではなかった。ただ、苦しかったのだ。どうしようもなく苦しくて、楽になりたかった。そこに丁度よく機密を守る為という名分があり、それを盾にした短絡的な行動であるという自覚はあった。だからこそ、アベルの言葉が胸に深く突き刺さった。


「ああいうこと、あんたには似合わないよ」


 そう言ったアベルの表情は見えなかった。けれど、何も言えない雰囲気があったのだ。それなら、死にたかったと言った貴方は似合うのか、と。
 結局、何も言うことが出来ぬまま、あっという間に国境連隊の詰所に到着してしまった。長かったようで短かったようにも思う。だが、いざこうして自分を保護してくれるであろう者たちが集まっている目的地に到着しても、安堵感はなかった。それよりも、立ち去ってしまうであろうアベルのことが気になって仕方なかった。


「ほら、行きなよ」
「……アベル」
「……あんたは戻らなきゃいけないんでしょ」


 アイリスが何を考えているのかなど、アベルにはすぐ分かったのだろう。彼は視線を逸らすと、彼女の腕を掴んで引き摺るようにして詰所の扉を開ける。そして、「待ってよ、アベル!」というアイリスの制止に聞く耳を持たず、彼は何事かと自分たちを見ている国境連隊に所属している兵士らに対して彼女を突き出した。
 王都の軍令部から連絡が来ているであろう誘拐された人間だということを伝えると、どうやら連絡は届いていたらしく、すぐに兵士らの顔色は変わった。すぐに本人確認が行われ、彼女が正しく第二騎士団所属のアイリス・ブロムベルグであるということが認められると、軍令部に向けて連絡が出される。
 その間もアイリスは気が気でなかった。自分の無事を喜んでくれる兵士らには申し訳なさもあったが、それよりもアベルがいなくなってしまうかもしれないとそればかり心配していた。そして、迎えが来るまで奥で休んでいるようにと勧められた矢先、それまで近くにいたアベルが踵を返して歩き出したことに気付いた。アイリスは慌てて、兵士らに対してすぐに戻るということを伝えるとアベルを追いかけて詰所を飛び出した。
 それは此処まで危険を冒して送り届けてくれたアベルの気持ちを踏み躙ることであるということは分かっていた。だが、此処で別れてしまえば、もう二度と会えないような気がしたのだ。アイリスは左右を見渡し、人混みに紛れ掛けているアベルの後ろ姿を何とか見つけると、形振り構わず駆け出し、彼の腕を掴んだ。


「何してるの、早く戻りなよ!」
「だって、アベルが何も言わずに何処かに行こうとするから!」


 本当はどうするのかは彼の判断に任せようと思っていた。ベルンシュタインに戻るにしろ、戻らないにしろ、その判断はアベルに委ねようと思っていたのだ。だが、いざこうして別れの時が来ると、その思いはいとも容易く霧散した。どうしても、追いかけずにはいられなかった。何処にも行って欲しくはないのだと、思ってしまった。


「……離してよ」
「嫌」
「離してってば。僕はもうベルンシュタインには戻れないんだ」
「だからってあそこにも戻れないんでしょ。……だったら、戻って来てよ。どうにかするから」
「どうにもならないよ、あんたに何が出来るっていうの?戻ったって僕は裏切り者で死罪だ」
「だとしても!……帝国に戻ったって、同じことじゃない」


 アベルは自分を逃がした。それを、鴉の者たちは許さないだろう。どちらにしろ、彼に死しか待っていないのならば、知っている情報を話すことでまだ助かる見込みのあるベルンシュタインに身を寄せるべきだ。そうすれば、少なくともカサンドラらから身を守ることは出来るだろう。このまま何もせずにいれば、それこそいつかカインに見つかってしまう。
 アイリスは強く、アベルの手を握り締める。その手は彼の手を離してしまった橋での時と同じように、冷たいものだった。


「覚えてる?アベル。……橋で、アベルが言ったこと」
「……」
「僕のことを想えばこそ、手を離して欲しいって……アベルはそう言ったよね」


 そして自分は、彼の言葉通りに手を離した。けれど、そうしたことを、手を離したことをずっとずっと、後悔していたのだ。離さなければ良かった。離すべきではなかったのだと何度後悔したことだろう。その時のことを思い出すと、どうしても今、握り締めているこの手を離すことは出来なかった。


「でも、わたしは……手を離すべきじゃなかった。アベルのことを想えばこそ、手を離すべきじゃなかったんだよ」


 手を離したことで、どうしようもないほど苦しくもなった。けれど、手を離さなかったとしてもきっと苦しかっただろう。それでも、手を離さなかったならアベルを傷つけることはもっとずっと、少なかったかもしれないと思うのだ。無論、それは仮定の話だ。どうなっていたかなど本当のところは分からない。ただ、思ったのだ。傍にいれば、守れたはずだと。自分の力で出来ることは限られている。だが、それでも傍にいることが出来れば――そう思わずにはいられなかった。
 だが、それも自分本位の思いだということは分かっていた。押しつけているのだということも分かっている。それでも、もう後悔はしたくなかった。もしかしたら、二度とアベルには会えないかもしれないのだ。今度こそ、手を離してしまえば、終わりかもしれない。それを思うと、どうしても手を離すことは出来ず、じわりと涙が滲んだ。一緒にいて欲しいのだと、ただそれだけを繰り返し続けた。



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