開戦 - struggler -



「司令官!前方、仮設大橋付近に敵影確認しました!」


 先行していた小隊が馬の速度を下げて並走しつつ大声で報告する。ここまでは想定通りであり、ゲアハルトは予てより出していた指示通りにそれぞれが動くように伝えるよう指示を出した。
 後方ではそれぞれが戦闘準備を始める中、ゲアハルトは険しい表情で前方に視線を向けていた。現在、ヒッツェルブルグ帝国に攻め込むベルンシュタイン本隊は時折休憩を挟みながらも前進し続け、ライゼガング平原の半ばに差し掛かっていた。この平原では様々なことがあり、苦い思い出も多く残っている。それらが脳裏を過るも、ゲアハルトは頭を振って意識の外へと追い出す。
 アイリスら別働隊に落とさせた大橋も今では仮設ではあるものの、復旧している。それを使うのであれば、落とさなければよかったのにと工作任務に従事した彼女らならば思うかもしれない。しかし、その当時には大橋を落とすことは必要なことだったのだと考え、ゲアハルトは自嘲した。このような言い訳じみたことを考えても、それを口にする機会などない。普段ならばすぐ隣で嫌味を口にするエルンストもおらず、アイリスは後方支援のため、遙か後方を移動中だ。誰にも話す機会などない。


「全軍、作戦通りに行動開始」


 その一言に呼応するように高らかに笛が鳴り響き、一気に左方の兵士らが先頭にいたゲアハルトらを追い抜いていく。彼らはこの場に残り、ゼクレス国による妨害を阻止する役目に就くのだ。彼らが抑えているうちに残りの全員が仮設大橋を渡り、帝国本土に侵攻するというのがこの場における作戦行動だった。
 向かっていくベルンシュタインの兵士らを迎え撃つように仮設大橋を守るように布陣しているゼクレス国軍の兵士らが徐々に鮮明に見えてくる。まずは彼らを蹴散らさねば仮設大橋を渡ることは出来ない。かと言って、あまり時間を掛け過ぎるわけにもいかない。時間を掛ければ掛けるだけ有利になるのは遠征しているベルンシュタインではなく、ゼクレス国軍だ。


「ゲアハルト司令官!」
「先行部隊が仕掛けを用意している。攻撃魔法士に城壁を攻撃させろ。一つでも起爆させれば、後は勝手に崩れる」
「了解しました。すぐに伝令を」


 馬を寄せて来たのは現在主体となって最前線でゼクレス国軍と交戦を開始した第五騎士団の団長だった。彼らにはこの場を任せることになってはいるのだが、圧倒的の兵力差になることは間違いない。そのため、どうにか引き分けに持ち込むべく、そのための仕掛けを先行部隊のレックスらに任務の一つとして与えていたのだ。
 ゼクレス国はヒッツェルブルグ帝国に続く大橋を保有している。その橋はヒッツェルブルグ帝国に最短で行く為に必要な要所であり、だからこそ、夏ごろに一度破壊させたのだ。そうすることで帝国軍本隊の侵攻をリュプケ砦方面からのみに絞らせ、一か所の防衛に力を注ぐことが出来た。ヒッツェルブルグ帝国からリュプケ砦方面へは従属国がいくつもあるため、帝国軍にしてみれば補給はいくらでも出来るのだが、距離があまりにも掛かる。また、従属国も既に帝国に絞り尽くされた後ということもあり、補給するにも限度がある――そのことを踏んだ上での大橋の破壊工作だった。
 また、ベルンシュタイン側から侵攻するとなるとリュプケ砦方面からは距離も掛かるだけでなく、いくつもの従属国を通過するため、危険も大きい。出来るだけ短い期間で、尚且つ危険も少ない道となるとライゼガング平原を通過し、仮設大橋を渡らなければならない。無論、この道を使うことは帝国軍も分かっているであろうことを考えると、何かしら罠が仕掛けられている可能性が高いのだ。
 今のところ、先行部隊であるレックスらからそのような報告は受けてはいないものの、何もなくすんなりと帝都まで辿り着ける方がおかしい。帝都に何かしら仕掛けているのだろうかと考えつつ、ゲアハルトは皇帝の座に就いている従兄弟のことを思い浮かべる。もう、ヴィルヘルムが何を考えているのかは分からなかった。少なくとも、自分のことを憎んでいるのであろうことだけは分かる。だが、それが分かっても意味はないのだ。情けなさに奥歯を噛み締めつつ、ゲアハルトは第五騎士団の攻撃魔法士らがゼクレス国の城壁に向けて攻撃を開始する様に視線を向けた。


「第六騎士団は橋を調べろ。何も仕掛けられていないか、入念に調べるんだ」
「了解しました!」


 最前線では力が拮抗しているようだった。此方が勢いよく突撃していることもあって今はまだ拮抗状態を保っているが、それも時間の問題だ。仮設大橋を調べるにしても、今だ橋はゼクレス国軍に守られている。まだか、と緩やかに馬の速度を落としながら城壁を見ると、既に弓兵らがそこに集い、矢を番えて構えている。射程に入れば、一斉に矢が放たれるだろう。
 ゲアハルトは舌打ちする。しかし、怒声を上げるよりも早く、城壁に向けて攻撃魔法を繰り出していた兵士の攻撃がそれを相殺させていたゼクレス国側の攻撃魔法士の攻撃をすり抜けて城壁にぶつかる。そして、城壁の一部が白く閃くと、次の瞬間には城壁が爆発した。その一度の爆発を皮切りに次々と周辺の城壁も爆発し、崩れ始める。大きく抉れた城壁の岩が崩れ、それらがゼクレス国軍の兵士らの真上に落ち、城壁の上で弓を構えていた弓兵らも次々と足元が崩れて空中へと投げ出されていった。
 その場は阿鼻叫喚に満ちていく。最前線にいたゼクレス国軍の兵士らも一斉に蜘蛛の子を散らしたかのように逃げ惑い始めた。一方、ベルンシュタイン軍は勢いに乗り、仮設大橋の守備に就いていた兵士らを蹴散らす。その隙に仮設大橋の調査を任せられた第六騎士団の兵士らが仮設大橋に向かっていく。


「司令官、ゼクレス国の東側城壁は壊滅、展開していた敵兵の被害も甚大です。敵の第二波の様子は見受けられません」
「了解した。念の為、第六騎士団の半数に残りの城壁にも魔法石を仕掛けるように指示を出せ」


 仮設大橋の調査は進んでいるようであり、特にこれといった仕掛けも無さそうである。しかし、この橋を落とせば帝国軍には有利に働く。何故何の仕掛けもないのか――訝しむような視線をゲアハルトは橋に向ける。仮設大橋を防衛していたゼクレス国軍に対してもそれは同様のことが言えた。彼らからは橋を死守しようという気配がまるでなかったのだ。防衛する振りをしているだけのように思えてならない。
 これではまるで誘い込まれているようだ、とゲアハルトは考える。そして、恐らくその考えは間違っていないのだろうとも考えていた。帝国軍は――ヴィルヘルムはゲアハルトを帝都まで引き摺り出そうとしている。ベルンシュタインから出撃している本隊は全体の兵力の半数以上であり、司令官であるゲアハルトや第二、第三騎士団を始めとする主力が集められている。それらを出来るだけ本国から引き離そうとしているのだろう。
 もしかしたら、この裏でリュプケ砦方面に向けて帝国軍の別働隊が動いているのかもしれない。その用心も兼ねてリュプケ砦方面には第八騎士団の他にも戦力を回している。そのため、王都からレオが率いる第一騎士団を始めとした主力が出撃すると王都はがら空きとなってしまう。こればかりは致し方ないこととは言え、やはり後方の不安はある。出来るだけ早くゼクレス国を封じ、この場に残る第四騎士団を本国に戻さなければならない。
 そうこうしている間にも仮設大橋の調査は終わったらしく、橋を渡り終えた第六騎士団の面々が旗を振っている。何とか無事に橋を渡ることは出来るらしい。かと言って、あまり時間を取るわけにもいかない。ゲアハルトはすぐに後方支援から順に橋を渡るようにと指示を出す。ここまでは予定通りに事が進んでいることに安堵しつつも、本題はこれからだ。


「仕掛けが完了次第、降伏勧告を出せ。出来るだけ早くゼクレスを落とし、第四は国に戻って陛下に助力を」
「了解しました。……司令官、ご武運を」
「ああ」


 敬礼する第四騎士団団長に敬礼を返し、ゲアハルトは慎重に橋を渡る兵士らの列に加わり、馬を歩かせる。後方では次々と降伏し、地に伏せるゼクレス国の兵士らを見ることが出来る。だが、まだ国王自身が降伏したわけではないのだ。無事な城壁から弓兵が攻撃してくる可能性もある。十分に用心しつつ、ゲアハルトは馬を歩かせ続ける。
 正直なところ、このような形で母国の地を踏むことになるとは思いもしなかった。もっと早くに――それこそ、すぐに白の輝石を借り受けて戻って来るつもりだったのだ。だが、気付けば十数年が経っていた。それまでに何度も連絡を取ろうとしたのだ。だが、出した手紙の返事は何日も、何ヶ月も待とうとも届かなかった。
 届いたのは皇帝である実父の死の知らせだった。叔父に暗殺され、その地位を簒奪されたのだという知らせを聞いたときは、とてもではないが信じられなかった。叔父のことを思い出し、まさかそんな、と何も考えられなくなった。食事も喉を通らなかった。
 すぐにでもヒッツェルブルグ帝国に戻ろうとしたが、それを止めたのが他ならぬホラーツだった。普段の好々爺然とした彼とは想像もつかぬほど厳しい顔をして引き止められた。戻っても殺されるだけだ、と――そう言って引き止められた。今となってもそれが正しい選択だったのかは分からない。もっと早くに戻っていたのなら、帝国の暴走を止めることが出来たかもしれない。無論、その保障は何処にもなく、戻ったところで何も変わらなかったかもしれない。


「……ヴィルヘルム」


 彼はきっと、自分が裏切ったのだと思っていることだろう。だが、ゲアハルト自身、それを否定するつもりはなかった。どのような理由であれ、自分が帝国に帰らなかったという事実に変わりはない。帰ろうと思えば、出来なかったわけではないのだ。バイルシュミット城を抜け出し、形振り構わずに帝国に戻っていたのなら――それは何度も考えたことだ。だが、それを実行することはなかった。
 だからこそ、裏切ったと思われても仕方が無いと彼は考えていた。無論、裏切るつもりなどなく、裏切ったわけでもない。だが、そう思われるだけのことをした自覚はあった。
 ゲアハルトは従兄弟の名を呟く。彼だけは何としてもこの手で止めなければならない。それが、ずっと国に戻らず、自分自身の責務を果たさずにいた自分がヒッツェルブルグ帝国という自分自身の国に対して出来ることなのだと考えていた。それが自身のエゴだとしても、最後に残された皇族としての果たすべき責務なのだと、手綱を握る手に力が籠る。


「司令官、隊列が整いました」
「そうか。……ならば、第六に橋に魔法石を仕掛けさせろ。橋を落とす」
「了解しました」


 それから暫しの時間を掛け、第四騎士団以外の全ての兵士の対岸への移動が完了した。そして、隊列を改めて組み直した後、それを知らせに来た兵士に対し、指示を出す。一度落とした橋を再び落とす――つまり、退路を断つということだ。とは言っても、ベルンシュタインに帰還する道がないわけではない。クラネルト川沿いにライゼガング平原の対岸を走れば、リュプケ砦方面まで行かずともベルンシュタインに戻ることは可能だ。そのためには山越えをする必要があるものの、帝国に勝利すれば何もそのような裏道を通らずとも済む。
 結局のところ、勝つか負けるか、ただそれだけだ。勝てば諸手を振って本国に帰ることが出来る。負ければ戦場で死ぬか、惨めに敗走するか――そのどちらかだ。そして、今回は恐らく最後の戦いになる。そのために万全を期して準備を進めて来た。もう一度、はないのだ。


「行くぞ、進撃する」


 橋の向こうでは今だ爆発音や怒声、悲鳴が聞こえて来る。だが、それらに構っている余裕はない。全軍が再び走り始め、十二分に渡り終えた仮設大橋から離れた頃、激しい爆発音と水飛沫が立ち上る音が聞こえて来た。橋が落ちたのだ。これで背後から追撃される心配はなく、また、自分たちの逃げ道の一つを失った。もう前に進むしかない――この場に残るベルンシュタインの兵士らの表情は一層険しくなっていく。 このまま北に進めばヒッツェルブルグ帝国帝都アイレンベルグに辿り着くことが出来る。このまま何の罠がないとも知れないが、少なくともレックスら先行部隊からその知らせはない。ゲアハルトは馬上でありながら素早く小さな紙に暗号文を認めると呼び寄せた鳥の足にそれを巻き付ける。そして、鳥を先行しているレックスらに向けて飛ばす。
 本隊は既に仮設大橋を突破したこと、このままもうしばらく進んだところで野営をすることを伝えるのだ。その間にも恐らく、レックスらは帝都に向かっていることだろう。彼らの最大の任務は帝都アイレンベルグの城門を開けること――ただ、それだけだ。その過程で障害を退け、仕掛けをすることも含めてはいるが、彼らに課した主たる任務は城門の開閉なのだ。ゲアハルトは自分が最後に出た時の帝都の城門を思い浮かべる。幼かった自分は空に聳え、重く厚いその城門を見る度に越えてしまえば二度と戻っては来れないのではないかと、そのようなことなことばかりを考えていたことを思い出した。
 帝都を守る城門の警備は厚いだろう。それらを出し抜き、内側から城門を開けることは容易なことではない。だが、それでもレックスらは自ら出撃を志願した。彼らに任せれば安心だとも思った。だが、それと同時に心が痛んだ。最も生きて戻って来られる確率の低い任務だ。寧ろ、命を落とす可能性の方が高い。誰かが行かねばならぬ任務ではあるのだが、それでもやはり、心は痛んだ。


『任せて下さい。必ず、成功させますから』


 オレたちを信じて予定通りに帝都に突っ込んで来て下さい。必ずオレたちが城門を開けてみせます。
 レックスらは口々にそう言った。必ず門を開けるからそれを信じて突撃して欲しい、と。そう言った時の彼らの顔を思い出す。誰もが、笑っていた。心の中では恐れていたとしても、それでも少なくとも、自信に満ちた顔で笑っていたこと――その様子を思い出しながらゲアハルトは唇を噛み締める。
 ベルンシュタインの為に、本隊の為にと何よりも危険な先行部隊を買って出てくれた彼らの為にも是が非でも帝都まで辿り着かなければならない。これ以上、兵力を分散させることなく、何としても辿り着かなければならないのだと自分自身に言い聞かせる。そして、たとえ誰が死に絶えようと、刺し違えようともヴィルヘルムを止め、黒の輝石を消滅させる。それが自分に課せられた使命なのだと、自分自身に言い聞かせる。
 未だ、白の輝石は覚醒していない。今も移動しながら後方支援の馬車の一つで覚醒を促すべく、実験は継続している。焦りはある。黒の輝石は既に覚醒間際だというのに、白の輝石は一向にその気配さえ見せないのだ。このまま、覚醒しないまま辿り着いてしまうのではないかという恐れもある。しかし、もうこうして出撃している以上、後は間に合うように願うしかない。どうか、と願い続けるしかないのだ。そのことを歯痒く思いながら、ゲアハルトは全軍を率いて草木の枯れた荒野で馬を駆り続けた。










「レックス、司令官からの連絡だ。本隊は無事にライゼガング平原を越えてこっち側に来たって」


 夜も更けた頃、レックスら先行部隊は避難勧告により誰もいなくなった小さな村のとある一軒の家の中にいた。カーテンを締め切り、極力外に灯りが漏れないように気を付けながら小さな蝋燭だけを光源としている。各々、身体を休めていたが、丁度周囲の様子を窺っていた兵士の一人が鳥を肩に乗せたまま戻って来た。その手には小さな紙が握られ、そこには暗号が書かれていたようだ。
 この鳥が放たれたのは恐らく、仮設大橋を越えてすぐの頃だろう。今頃は野営に取り掛かっている頃合であり、今のところは順調に予定通りに事が進んでいる。しかし、これから先も予定通りに事が進むとは思えない。寧ろ、本番はこれからだ。


「今のところは順調だな」
「ということは、俺らが仕掛けた魔法石も上手くいったってことだよな?」
「だろうな。うまくいってほっとした」


 王都を出撃して最初にレックスら先行部隊が遂行した任務がゼクレス国の城壁への工作だ。半数の兵士でゼクレス国の裏門へと周り、そこで騒ぎを起こす。その隙に残りの兵士で仮設大橋に面した正門に特殊な粘着性の液体に浸した魔法石を投げ付けていったのだ。その日は月も雲に隠れていたということもあり、見つかり難かったことも幸いしたのだろう。
 兎にも角にも、何とか本隊が仮設大橋を渡り切ることが出来たことに誰もが安堵の息を洩らす。これで本隊が橋を渡れなかったとなると、レックスらも足止めを食らうことになる。いくら避難勧告が出ているとはいえ、村への帝国兵による見回りが無いとも限らない。出来る限り、迅速に移動し続けたいところなのだ。


「じゃあオレたちもそろそろ移動するか。朝までにある程度進んでおきたい」
「ああ。とりあえず次の街の目安を決めようぜ」
「地図取って来るわ」


 移動を開始する為にそれぞれ準備をする仲間を眺めながら、レックスは窓へと近付いた。窓から広がる景色は寒々しいものだった。冬だからという理由だけではなく、草木が枯れ、空がどんよりとした重たい雲で覆われていた。雪でも降るのではないかと思うほどの雲の分厚さと隙間風の冷たさに身体が冷える。しっかりとマフラーを巻きつけていると、名前を呼ばれ、レックスはテーブルへと戻った。
 広げられた地図を小さな蝋燭で照らし出す。まだ帝都までは二日ほど掛かる。急げばもう少し早く着くだろう。その辺りは本隊と調整しつつ決めることにはなるが、兎も角、もっと前進しておかなければならないことに変わりはない。次はどの辺りの街まで進むことが妥当かを口々に相談する。
 それらを聞きながらも、レックスはどこかぼんやりとした様子で地図を見ていた。アイリスやレオ、アベルにエルンストのことが気掛かりだったのだ。今は彼らのことを気に掛けている余裕はないのだが、やはりそれでも無事だろうか、無理はしていないだろうかと心配になる。そんな自分自身にレックスはこっそりと溜息を吐く。今はそれどこではないのだと言い聞かせ、「なあ、レックス。この村まで移動するってことでどうだ?」と兵士の一人が指している地図を覗き込む。


「いいと思う。それなら進路はこの森に入って、東から回るか」


 丁度今は月も出ていない。動き出すには丁度いい――そう言うと、すぐに彼らは動き出した。元よりそれほど大荷物でもないため、すぐに動き出すことは出来る。馬は近くの森に隠しているため、一度そこに行ってから次の街を目指すことになる。
 レックスらは準備を整えると、周囲を警戒しながらなるべく音を立てないように家を出ると足早に近くの森へと駆け込む。そして、森の奥へと分け入り、木に繋いでおいた馬の縄を解く。よく訓練されているため、声を出さない馬に「待たせて悪かったな」と声を掛けながらその頬を撫でる。温かな体温がじんわりと掌に伝わって来る。そのことにほっとしながらそれぞれ馬に跨ると、より森の奥に入りながらなるべく足音を立てないように気を付けながら移動を開始した。


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